お稲荷様などの扱いも、細心の注意が必要です。この部分も、時代に関係なく、おろそかにすることはできません。家相では、ほとんどのケースで、建物の中心からの方位で判断しますが、お稲荷様のように、自分の敷地内にお社を建てる敷地内神社の場合には、家の中心ではなく、敷地の中心からの方位で判断します。敷地の中心から見て北西方位や東方位、東南方位に、東向きか南向きに建てます。これは、建物だけではなく、敷地全体をお守りいただくのですから、敷地からの方位で判断します。一番大切なポイントは、むやみに動かさないこと。住宅を増築するので、お社が邪魔になっても、簡単に動かしてはいけません。一度決められた場所は、動かさないことが基本なのです。すでに敷地内にお社がある場合は、敷地の中心から見て鬼門に入っていても、それはそのままにしておくことです。
とにかく、一度決めた場所を軽々しく動かさないことが基本です。家を建て直すときも、お社を日陰にすることや、上から見下ろすような建て方はしないこと。縁あって祭られているのですから、大事にすることが大切です。少なくても、建て直す以前よりも環境を悪くしては失礼に当たります。また、お稲荷様や敷地内にあるお社については、必ず「縁起」を残してほしいです。いつ、だれが、どのような事情で祭ったのか、祭り方の諸注意も残して おくことが大切です。記録に残して、お社の中や神棚など、しかるべきところに保存しておけば、いざというときに困らなくてすみます。これも、必ず実行してほしい大事なポイントです。
東京近郊のN家から、こんな相談を受けたことがあります。N家は、このあたりの大地主で、敷地も広く、建物の構えも立派です。しかし、敷地の中に祭られているお稲荷様は、祭り方に問題がありました。先祖に比べて、お稲荷様を大切に敬う心が足りず、お社や周囲の手入れが行き届いていませんでした。現在の当主が、気持ちを入れかえ、お稲荷様の祭り方について調べようとしましたが、どちらのお稲荷様なのかそれさえもわからない。いつから祭ってあるのか、どんな祭り方をするのか、などの縁起が残っていないのです。困り果てて私に相談されても、さすがに困ってしまいました。結局、いろいろと手をまわし、お稲荷様に失礼のないところまでは何とかできましたが、いつも運がよいとは限りません。したがって、自分の家にお稲荷様などの敷地内神社があるお宅では、しっかりと縁起を残して下さい。ご先祖から、敷地や家を受け継いだときは、敷地内神社への責任も受け継ぐことになります。繰り返すようですが、むやみに動かすことや、失礼に当たることは絶対に避けて下さい。
家相建築設計事務 佐藤秀海