家相というと、玄関やキッチン、トイレの配置を方位に合わせて決めていくので、柔軟性がないように思われていますが、そんなことはありません。家相の教えには、問取りを柔軟に考えるものもあります。たとえば、家相には「家族定位」という考え方があります。主人なら主人の定位、妻なら妻の定位というように、家族の立場に合わせて方位が定められています。家を建築したときは主人であっても、時がたてば子供たちが成長して、自分が年老い、長男に家長の座を渡すときもくるでしょう。家相上では、そのときに、主人の定位を明け渡すという教えがあります。つまり、家相上では、主人の定位は北西方位なので、家長である主人の部屋は北西方位にとります。長男の定位は東方位なので、家長が交代するときに、長男が東の部屋から北西の部屋に移り、父親は「隠居部屋」に移ることになります。新築した段階から隠居部屋を用意し、世代交代に備えることを、当たり前としていました。一般的なプランニングのコツにも、このようなタイムラグをとるという考えがあります。時間差を考えて間取りや部屋割りを決めていく方法です。
たとえば、子供部屋ですが、子供が二人だからといって、すぐに二部屋を用意することはありません。子供が幼児のころは、親と一緒に寝ているので、一人で自分の部屋を使うまでには何年もかかります。そんなときには、子供部屋を細かく二つに区切らず、大きな一部屋にしてしまえばいいです。これなら、子供たちで遊ぶときにも、家族みんなで寝るときにも手狭にはなりません。子供たちがそれなりの年齢になったときに、可動式の間仕切り家具で部屋を仕切るとか、あらかじめ壁や扉を施工できるように、プランの段階で考えておくことが大切です。柱や梁、筋違いなどを設計上で調整しておけば、後は簡単にできるはずです。
家族の状況に合わせて、柔軟に対応できる家が、いい家、賢い家なのです。家相の基本である採光と通風を考えても、間取りに工夫ができます。子供部屋は、通常、日当たりのよい場所にプランニングすることが多く、夫婦の寝室はどうしても北側になります。子供が小さいときには、これでもよいでしょう。子供たちが成長し、両親も年を重ねたら、自分たちが日当たりのよい部屋に移ることも検討してほしいです。簡単なリフォームで、部屋続きにすることも可能です。キッチンやダイニング、リビングでも同じこと。現在の生活にとらわれずに、これから先のことも考えて、プランをしておけば、何かのときに役立ちます。プランニングするときも、固定観念だけで進めるのではなく、今の生活と将来の暮らしを考えて、その時々にあった柔軟な家をつくることが大切です。
家相建築設計事務 佐藤秀海